【許すことと、なかったことにすることの違い】

 Fromシンヤ(男女のパートナーシップ研究所)

夫婦関係で大きな問題が起きた後に、こんなすれ違いが起きることがあります。

傷つけられた側は、

「まだ自分の中では終わっていない。」

と思っている。

一方で、傷つけた側は、

「謝ったし、もう二度としないと言ったんだから、そろそろ前に進みたい。」

と思っている。

ここで出てきやすいのが、

「もう終わったことにしてほしい。」

「なかったことにして、前を向きたい。」

という言葉です。

言っている側には、悪気がない場合もあります。

いつまでも同じ話を続けるより、これからのことを考えた方がいいと思っているのかもしれません。

ただ、「許すこと」と「なかったことにすること」は、かなり違います。

許すことは、忘れることではない

心理学の「許し」に関する研究では、許すことは、相手がしたことを忘れたり、正当化したり、「たいしたことではなかった」と考え直したりすることとは区別されています。

また、許すことと、以前と同じように相手を信頼することも別のものとして考えられています。

たとえば、パートナーから深く傷つけられる出来事があったとします。

その人の中で、

「あの時のことを思い出しても、以前ほど怒りに飲み込まれなくなった。」

「もう相手を罰したいとは思わなくなった。」

という変化が起きることはあります。

これは「許す」に近い変化です。

でも、

「あの出来事はもう存在しなかったことにする。」

という話ではありません。

起きたことは覚えているし、その出来事によって感じた悲しさや不安も、自分の経験として残っています。

許すというのは、記憶を消す作業ではないのです。

「なかったことにして」と言われると、傷ついた側は何を感じるのか

傷つけられた側からすると、「なかったことにしてほしい」という言葉は、かなり苦しく聞こえることがあります。

なぜなら、消されるのは出来事だけではないからです。

その出来事の後に眠れなかった夜や、何度も考えてしまった時間、相手を信じたいのに疑ってしまった自分の気持ちまで、

「もう終わったことだよ。」

と言われているように感じることがあります。

本人にとっては、まだ現在進行形なのです。

頭では、

「もう起きたことは変えられない。」

と分かっている。

できれば自分だって早く楽になりたい。

それでも気持ちが追いつかないことがあります。

そんな時に「もう忘れよう」「いつまでその話をするの?」と言われると、

「自分が受けた傷は、それくらい軽いものだったのかな。」

と感じてしまうことがあります。

すると、前に進むどころか、余計にその出来事から離れにくくなることもあります。

傷つけた側にも「終わらせたい」理由がある

一方で、傷つけた側の気持ちも考える必要があります。

自分がしてしまったことを何度も振り返るのは、かなり苦しいものです。

罪悪感がある人ほど、

「自分はこれからずっと責められるのだろうか。」

「何をしても、結局あの話に戻ってしまうのだろうか。」

と不安になることがあります。

謝罪し、行動を変えようとしているのに、何ヶ月経っても同じことを聞かれ続ければ、

「もうどうしたら許してもらえるのか分からない。」

と思うこともあるでしょう。

そうなると、

「もうなかったことにしてほしい。」

という気持ちが出てくるのも、ある意味では自然です。

ただ、ここで少し気をつけたいのは、

「自分が苦しいから、相手にも早く立ち直ってほしい。」

となっていないかということです。

謝罪は相手が許すきっかけになることがありますが、謝った側が「これだけ謝ったんだから、そろそろ許してほしい」と期待すると、それ自体が傷ついた側へのプレッシャーになることがあります。

謝罪した後には、相手が自分のペースで気持ちを整理する時間も必要なのです。

前に進むとは、過去の話をしなくなることではない

夫婦関係を再構築する時、

「いつになったらこの話をしなくて済むんだろう。」

と考えることがあります。

でも、本当に前に進んでいるかどうかは、過去の話が出なくなったかだけでは測れません。

たとえば以前の出来事について話した時に、

「またその話?」

ではなく、

「まだ不安になる時があるんだね。」

と話せるようになる。

傷つけられた側も、

「あなたを責めたいわけではないけど、今日は少し思い出してしまった。」

と伝えられるようになる。

こういう変化も、再構築の一部です。

過去を消すのではなく、過去について話しても関係が壊れなくなっていく感じです。

許してもらうためにできるのは、「忘れて」と頼むことではない

許しの研究を長年行っているエベレット・ワーシントンは、「許し」と「信頼関係の回復」を分けて考えています。

許しは本人の内側で起きるものですが、信頼の回復は二人の間で起きるものです。

一度壊れた信頼は、「もうしない」という一言だけで戻るわけではなく、その後の行動によって少しずつ作り直されていきます。

なので、傷つけた側にできることは、

「もう忘れてほしい。」

とお願いすることより、

「思い出して不安になった時には話していいよ。」

と言える状態を作ることなのかもしれません。

もちろん、傷つけられた側も、相手を何年も罰し続けることが再構築というわけではありません。

どこかでは、自分自身のためにも、その出来事との付き合い方を少しずつ変えていく必要があります。

ただ、そのタイミングを無理に早めても、うまくいかないことがあります。

許すというのは、

「何もなかったことにする。」

ことではありません。

「あったことは、あった。」

その上で、これからこの人とどう関わっていくのかを考えられるようになっていく。

夫婦の再構築では、そのくらいの捉え方の方が現実的なのではないかと思います。

 

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