
Fromシンヤ(男女のパートナーシップ研究所)
「洗濯物、干しておいたよ。」
「ありがとう。でも、これシワになっちゃうから伸ばして干してほしかった。」
「……分かった。」
別の日。
「食器、洗っておいたよ。」
「このフライパンは洗ったら拭いておいてって前にも言ったよね。」
「……うん。」
妻からすると、別に夫を否定したいわけではありません。
やってくれたこと自体はありがたいし、気づいたことを伝えているだけかもしれません。
ただ、こういうやり取りが何度も続くと、夫の中で少しずつ別の感覚が生まれてくることがあります。
「俺がやると、結局何か言われる。」
「どうせまた間違ってるんでしょ。」
「何をしても怒られる。」
ここまで来ると、問題は「洗濯物の干し方」や「フライパンの扱い方」だけではなくなってきます。
「怒られるかどうか」が行動の基準になっていく
人は、自分の行動に対して何度もネガティブな反応が返ってくると、その行動そのものに慎重になります。
特に、
「何をすれば正解なのか分からない。」
「前に言われた通りにやったつもりなのに、また違うと言われた。」
という経験が重なると、自分で判断して動くことがだんだん怖くなることがあります。
心理学には「学習性無力感」という考え方があります。
もともとは、自分では結果をコントロールできない経験が繰り返されることで、「何をしても変わらない」と学習し、行動しなくなっていく現象を説明するものです。
もちろん、夫婦関係の家事の話をそのまま学習性無力感と呼べるわけではありません。
ただ、「自分がどう動いても結局うまくいかない」という感覚が続くと、行動への意欲が下がりやすくなるという点では似た部分があります。
すると夫は、
「これやっておいた方がいいかな。」
と思っても、
「でも、やり方が違うって言われるかもしれない。」
という過去の経験が思い出されて、動くのをやめる可能性が高くなります。
その結果、妻から見ると、
「なんで言われるまでやらないの?」
となってしまうのです。
夫が「確認ばかりする人」になることもある
もう一つ起こりやすいのが、夫が何でも妻に確認するようになることです。
「これ、ここに置いていい?」
「洗濯、今やっていい?」
「子どもの着替え、これでいい?」
妻からすると、
「それくらい自分で考えてよ。」
と言いたくなるかもしれません。
確かに、毎回聞かれたら疲れます。
でも、夫の側では「考えていない」というより、自分で決めて失敗することを避けている場合があります。
自分で決める。
↓
違うと言われる。
↓
嫌な空気になる。
この経験が何度も続けば、
最初から聞いておいた方が安全だ。
となるのも不思議ではありません。
ただ、ここで妻が「そんなことまで聞かないでよ」と反応すると、夫はさらに困ります。
聞かずにやっても怒られる。
聞いても怒られる。
こうなると、「どうせ怒られるなら、何もしないで怒られた方がマシ」という方向へ動きやすくなります。
妻からすると「私ばかり考えている」になる
難しいのは、夫が動かなくなるほど、妻の負担は実際に増えていくことです。
夫が自分で判断しなくなれば、妻が判断する場面が増えます。
夫が確認してくるたびに、妻が答えるのも負担になります。
夫がやらないことが増えれば、それを妻がやるようになる。
すると妻は、
「家のことを考えているのは私だけ。」
「私が言わないと何も進まない。」
と感じるようになります。
当然、夫への言い方も厳しくなりやすいです。
一方の夫は、
「また怒られた。」
「この家に、俺の居場所はない。」
と感じます。
妻が細かく指摘する。
↓
夫が自分で動かなくなる。
↓
妻の負担が増える。
↓
妻がさらにイライラする。
こうして、どちらか一人が悪いというより、二人の間に悪循環ができていきます。
それが続くと、場合によっては、夫が家に帰る時間を減らすためにあえて残業を増やしたり、仕事後に一人で時間をつぶしてから家に帰る、というケースが発生することもあります。
「怒らないようにする」だけでは解決しない
では、妻が何も言わなければいいのでしょうか。
それも違うと思います。
実際に困っていることがあるのに、
「夫が傷つくから。」
と全部我慢していたら、今度は妻の不満が溜まっていきます。
必要なのは、指摘をゼロにすることではなく、「できていないところを見つける会話」ばかりになっていないかを確認することです。
たとえば夫が食器を洗ってくれた時に、フライパンの拭き忘れがあったとします。
そこで毎回、
「また拭いてない。」
から入るのと、
「洗ってくれたんだ、ありがとう。フライパンだけ拭いてもらえる?」
では、伝えている内容はほぼ同じです。
もちろん、毎回こんなに丁寧に言わなければいけない、という話でもありません。
夫側も、「注意された=自分の全部を否定された」と受け取らず、必要な部分は修正していくことが必要です。
ただ、二人の間で「注意する人」と「注意される人」という役割が固定されてきた時には、少し気をつけた方がいいと思います。
夫婦なのに、いつの間にか上司と部下、あるいは親と子のような関係になってしまうことがあるからです。
「何をしても怒られる」が出てきたら、内容より「パターン」を見る
もし夫が、
「どうせ何やっても怒られるから。」
と言うようになったら、
「そんなことないでしょ。ちゃんとやれば怒らないよ。」
と返したくなるかもしれません。
でも、この言葉が出てきた時には、一つ一つの指摘が正しいかどうかだけではなく、二人の間にどんなパターンができているのかを見た方がいいです。
夫は本当に何をしても怒られているのか。
それとも、注意されたことを必要以上に「否定された」と受け取っているのか。
妻は本当に細かく指摘しすぎているのか。
それとも、何度お願いしても同じことが繰り返されて、言い方が強くなっているのか。
たぶん、実際の夫婦ではどちらか一方だけが原因ではないことも多いです。
夫婦関係は、ループだからです。
「いつも妻から怒り始める」と感じている夫も、自分でも気付かないうちに、妻が怒るような行動を毎回取っている可能性があります。
「いつも夫は私を怒らせる」と感じている妻も、自分が意識せずに言った一言が、夫に毎回同じ行動を取らせている可能性があります。
ループはどちらか片方が始めるものではなく、常に繰り返し2人の間で起こっている循環なのです。
「何をしても怒られる。」
「言わなきゃ何もやらない。」
この二つの言葉が同時に出ているなら、お互いの性格や能力を責めるより、二人の間でどんなループが起きているのか、一度見てみてもいいかもしれません。
P.S.
夫婦関係がギクシャクした時には、自分ひとりで解決しようとして、孤独を感じてしまいがちです。
そんな時には、第三者の力を借りることも良い選択肢です。
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