【「もう期待しない」と決めた時、夫婦関係に起きること】

 Fromシンヤ(男女のパートナーシップ研究所)

夫婦関係について相談を受けていると、

「もう夫には期待していません。」

「妻に何かを求めるのはやめました。」

という言葉を聞くことがあります。

何度伝えても変わらない。

話し合っても分かってもらえない。

期待するたびに傷つく。

そんな経験が何度も続けば、

「期待しなければ傷つかなくて済む。」

と考えるのは、とても自然なことです。

実際、期待を手放すことで、一時的に気持ちがラクになることもあります。

ただ、夫婦関係という視点で見ると、「もう期待しない」という状態が長く続くことには注意が必要です。

なぜなら、人がパートナーに期待しなくなる時、同時に「関係を良くしようとする力」まで失われていくことがあるからです。

「期待しない」は、諦めることで自分を守る方法でもある

期待するということは、

「この人なら分かってくれるかもしれない。」

「伝えれば変わるかもしれない。」

「もっと良い関係になれるかもしれない。」

と思うことでもあります。

ところが、その期待が何度も裏切られると、人はだんだん期待すること自体をやめるようになります。

心理学には「学習性無力感」という考え方があります。

自分が何をしても状況が変わらないという経験が繰り返されると、人はやがて行動を起こさなくなるというものです。

夫婦関係でも似たことが起こります。

何度お願いしても変わらない。

何度話し合っても同じケンカになる。

勇気を出して気持ちを伝えても否定される。

こうした経験が積み重なると、

「どうせ言っても無駄。」

という感覚が生まれます。

すると、自分が傷つかないために、相手に何かを求めることをやめます。

つまり「期待しない」という言葉の裏には、相手への無関心ではなく、何度も傷ついた結果としての自己防衛が隠れていることもあるのです。

ケンカが減ったから、関係が良くなったとは限らない

「期待しなくなってから、ケンカが減りました。」

という夫婦もいます。

これは一見すると、関係が改善したように見えます。

でも、必ずしもそうとは限りません。

相手に期待しているうちは、

「もっと話を聞いてほしい。」

「家事や育児を一緒にやってほしい。」

「もっと優しく接してほしい。」

と要求が出ます。

要求があるから衝突も起きます。

ところが、

「この人には何を言っても無駄。」

と思うようになると、要求そのものがなくなります。

当然、ケンカも減ります。

でもそれは、問題が解決したから静かになったのではなく、「関係を良くするために働きかけることをやめたから静かになった」可能性があります。

夫婦研究の権威として知られるジョン・ゴットマン博士も、関係が危機的な夫婦に見られる特徴として、激しいケンカだけではなく、相手への関心や働きかけそのものが失われていく状態を重視しています。

怒りがあるうちは、まだ相手に期待している場合があります。

怖いのは、

「もうどうでもいい。」

になってしまうことです。

期待をなくすと、夫婦は少しずつ「共同生活者」になっていく

夫婦は、本来すべてを分かり合う必要はありません。

違う価値観を持っていて当たり前だし、相手に期待しすぎないことも大切です。

ただし、

「過度な期待を手放すこと。」

と、

「相手に何も期待しなくなること。」

は違います。

完全に期待しなくなると、相手に頼ることが減ります。

自分の気持ちを話すことも減ります。

一緒に何かを考えることも減ります。

そして、

「自分のことは自分でやる。」

「相手のことには口を出さない。」

という関係になっていきます。

表面的には平和です。

家事もする。

子育てもする。

必要な連絡もする。

でも、心の中ではお互いが別々に生き始めています。

こうして夫婦が「パートナー」から「同じ家に住んでいる共同生活者」のようになっていくことがあります。

必要なのは、期待をゼロにすることではなく「期待の伝え方」を変えること

もちろん、すべての期待を相手に叶えてもらおうとすると、関係は苦しくなります。

「言わなくても察してほしい。」

「普通ならこれぐらいしてくれるはず。」

「夫婦ならこうするべき。」

こうした期待が強すぎれば、相手をコントロールすることにもつながります。

だから必要なのは、

「期待しない人になること。」

ではありません。

自分が何を望んでいるのかを、一度自分自身の頭の中で整理してから、それを相手が受け取りやすい形で伝えることです。

たとえば、

「もっと家族のことを考えてよ。」

ではなく、

「土曜日の午前中、2時間だけ子どもをお願いできる?」

と伝える。

「私の話を全然聞いてくれない。」

ではなく、

「アドバイスはいらないから、10分だけ話を聞いてほしい。」

と伝える。

期待を具体的なお願いに変えるだけでも、相手が応えられる可能性は大きく変わります。

そして、相手が応えてくれた時には、その小さな変化をきちんと受け取ることも大切です。

関係修復は、大きな変化によって起きるとは限りません。

「伝えたら少し聞いてくれた。」

「お願いしたら一つやってくれた。」

そんな小さな経験が積み重なることで、

「言っても無駄。」

という感覚が、

「もしかしたら伝わるかもしれない。」

に変わっていきます。

本当に危険なのは、期待することではなく「関係をあきらめること」

相手に期待して傷ついてきた人に、

「もっと期待しましょう。」

と言っても難しいと思います。

まず必要なのは、これまで期待するたびに傷ついてきた自分の気持ちを理解することです。

そのうえで、

「期待するか、期待しないか。」

という二択ではなく、

「自分はこの関係の中で、本当は何を望んでいるのか。」

をもう一度考えてみてください。

話を聞いてほしいのか。

一緒に子育てをしたいのか。

安心して気持ちを話せる関係になりたいのか。

もう一度スキンシップを取り戻したいのか。

「もう期待しない。」

という言葉の奥には、

「本当はこうなってほしかった。」

という願いが残っていることがあります。

夫婦関係を再構築する時に大切なのは、その願いを無理に消すことではありません。

傷つかないために閉じてしまった気持ちを少しずつケアしながら、もう一度「どういう夫婦関係を作っていきたいのか」を考えていくことです。

期待が残っていることは、必ずしも弱さではありません。

それはまだ、その関係に可能性を感じているということでもあります。

P.S.
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