Fromシンヤ(男女のパートナーシップ研究所)
夫婦ゲンカの途中で、こんな言葉が出ることがあります。
「昔はもっと優しかったのに。」
言われた方は、あまりいい気分がしないかもしれません。
「今だって家族のためにいろいろやっているのに。」
「そんなに変わったつもりはないんだけど。」
と反発したくなることもあるでしょう。
一方、言った方も、単に昔を懐かしんでいるわけではなく、今の生活の中で寂しさや不満を感じていることがあります。
この「昔はもっと優しかった」という言葉には、実はいくつか違う問題が混ざっているように思います。
付き合っていた頃と、優しさの出し方が変わる
交際中は、相手に会う時間が限られています。
デートの予定を考えたり、相手の話をじっくり聞いたり、ちょっとした変化に気づいて声をかけたりすることに、自然と意識が向きやすい時期です。
でも結婚して一緒に生活すると、毎日がデートというわけにはいきません。
仕事が終わったら夕食の準備をして、洗濯をして、子どもがいれば寝かしつけもある。
相手に何かしてあげたいと思っていても、そこまで気が回らない日もあります。
以前は「今日は疲れてない?」と聞いてくれた人が、今は黙って家事を片づけているかもしれません。
本人にとっては、それが家族を気遣う行動になっていることもあります。
ただ、言葉をかけてもらうことで愛情を感じる人にとっては、家事をしてくれていても「前より冷たくなった」と感じることがあります。
どちらが正しいというより、「優しさを表す方法」と、「受け取る側が求めている方法」がズレてきた状態です。(ここの詳しい内容は「愛を伝える5つの方法」という本がオススメです)
相手が変わったのではなく、生活の条件が変わったこともある
アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で夫婦関係を研究している心理学者のベンジャミン・カーニー教授とトーマス・ブラッドベリー教授は、1995年に「脆弱性・ストレス・適応モデル」という理論を提唱しました。
この理論では、夫婦関係は二人の性格や相性だけでなく、日々のストレスや、それに対して夫婦がどう対処するかによっても変化すると考えられています。
たとえば、交際中にはなかった長時間労働や育児の負担が増えると、以前と同じように穏やかに接することが難しくなる場合があります。
2022年に発表された49研究を対象とするメタ分析でも、子どもが生まれた後の夫婦満足度は、平均すると男女ともに低下する傾向が報告されています。
もちろん、子どもが生まれたら必ず夫婦仲が悪くなるという意味ではありません。
ここで考えたいのは、「優しくなくなった」という変化の裏側に、以前とは違う生活上の負担がないかということです。
また、夫婦という関係に慣れてくることで、以前は自然にしていた気遣いをしなくなることもあります。
「家族なんだから、いちいち言わなくても分かるだろう。」
と思って、感謝の言葉が減ってしまう。
この場合は、生活環境だけでなく、相手への接し方そのものを見直す必要があるかもしれません。
ただし、疲れているから何を言っても許されるわけではありません。
きつい言葉を繰り返したり、相手の困りごとを放置したりしているなら、それは別に向き合う必要があります。
不満が積もると、同じ言葉も冷たく聞こえる
もう一つ、見落としやすいのが受け取り方の変化です。
たとえば、夫が妻に「今日の夕飯、何?」と聞いたとします。
関係が良い時には、ただの質問として受け取れるかもしれません。
でも、家事の負担について何度もケンカしている時には、「まだ何も作ってないの?」と責められたように聞こえることがあります。
逆の立場でも、似たことは起こります。
夫が家事をしている時に妻から「それ、もう終わった?」と聞かれて、「早くやれってこと?」と感じるかもしれません。
心理学では、否定的な感情が「相手の言葉の解釈」に影響する現象を、「ネガティブ・センチメント・オーバーライド」と呼びます。
以前ご紹介した本「正しいケンカの仕方」の著者、ゴットマン博士の夫婦研究でも扱われている考え方です。
相手に対する不満がたまっていると、何気ない言葉や行動まで否定的に受け取りやすくなることがあります。
もちろん、実際に嫌味を言われている場合もあるので、すべてに当てはまるわけではありません。
それでも、相手の言動そのものが変わった部分と、自分の受け取り方が変わった部分を分けて考えてみると、少し見え方が変わることがあります。
「昔はもっと優しかった」は、今の不満を伝える言葉
そもそも、この言葉を口にする人は、本当に昔の二人に戻りたいのでしょうか?
もちろん、そういう気持ちがある人もいると思います。
でも、もう少し詳しく話を聞いてみると、今の生活の中で起きている具体的な不満が出てくることがあります。
「前は話を最後まで聞いてくれたのに、最近はスマホを見たまま返事をする。」
「以前は体調が悪い時に気づいてくれたのに、今は何も言われない。」
そんな出来事があって、「昔はもっと優しかった」という言葉になることがあります。
だとすると、昔と今のどちらが優しかったかを議論しても、あまり解決にはつながらないかもしれません。
言われた側も、「そんなことない、昔と同じだよ」と反論するより、まず何を寂しく感じているのか聞いてみる方が、話が進む可能性があります。
反対に、伝える側も「昔は」という大きなくくりで話すと、相手は今の自分を丸ごと否定されたように感じることがあります。
そこで、比較するのではなく、今困っていることを具体的に伝えてみるのはどうでしょうか?
たとえば、
「最近、話しかけてもスマホを見ていることが多くて、ちょっと寂しい。話す時だけ顔を向けてもらえると嬉しい。」
このように、今起きていることに絞った方が、相手も何を変えればいいのか分かりやすいでしょう。
戻したいのは昔の二人ではなく、今の二人の接し方
付き合い始めの頃と、結婚して何年も経った今とでは、生活も役割も違います。
昔と全く同じ接し方に戻ろうとしても、難しい部分はあると思います。
でも、だからといって、寂しさを我慢する必要はありません。
家事をしてくれることには感謝しているけれど、たまには話を聞いてほしい。
家族のために働いているつもりだけれど、自分の疲れにも気づいてほしい。
そんなふうに、お互いが今どんな形の優しさを求めているのか、話してみることはできるはずです。
また、言われた側にも「自分は昔と比べて、本当に何も変わっていないだろうか?」と考えてみる余地はあると思います。
もちろん、相手に求められることを何でも受け入れる必要はありません。
ただ、結婚前は当たり前にしていた小さな気遣いを、今はしなくなっているとしたら、そこを見直すだけでも相手の感じ方は変わるかもしれません。
「昔はもっと優しかった」と感じた時には、まず自分が何をしてもらえなくなって寂しいのか、少し具体的にしてみてください。
そして、言われた側も、相手がどんな場面でそう感じているのか、聞いてみてください。
昔に戻る方法を探すより、その方が今の二人にとって話し合いやすい入口になると思います。
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